木村眼科クリニック

 当クリニックについて

院長のコラム


◆「随想」 治療をもとめて二千キロ◆


国指定の難治性疾患「網膜色素変性症」は進行性で現時点では根本治療法がありません。視力、視野障害のため生活に支障をきたすことが多く、緑内障、糖尿病とともに三大視覚障害の一つとなっております。
最近、日本の40人の患者さんが北京で手術を受け、さらに多くの待ち患者がいることを知りました。ホームページには、「四千名以上に施行」「ハーバード大学に論文を発表」などと記載されております。また患者さんの声として「日本の眼科医は手術が行われていることを知りません。北京の検査データ(視野)はコンピュータで行い、主観が入りません。現地に行かないで疑っているだけでは、医療は進歩しないと考えます。是非医師としてこの術法と理論を学んでいただきたい」とありました。
医師として具体的な手術方法について知りたいと思い、担当者に問い合わせをしたところホームページを案内されましたが、医学的に理解不可能な手術法の紹介のみでした。私達医師は、英語の筆者名を入力するだけで世界中の論文を検索することができる世界最大の検索システム「MEDLINE」をよく利用します。そこで独自に検索すべく再度先生の英語名を問い合わせましたが、回答をいただくことはできませんでした。そこで後輩の「楊」先生に英語名を聞き検索しましたが、該当論文は見つかりませんでした。またホ-ムページには、「メスを使用しない手術」の後に「7日目に抜糸」の記述や、本来矯正視力で治療効果を判定するはずが「裸眼視力向上」とあること、日本と同じ検査方法を「北京の視野検査法は主観が入らない」としているなど不明瞭、不正確な記述が目立ちます。以上の事からこの手術はお勧めできないという結論になりました。
しかし、このような療法に多くの患者さんが殺到する現状には眼科医として反省すべき点が多々あります。ホームページ上の患者さんの声として『みなさん、定期的に受診されていることと思いますが、その行為を「診察」と言えるでしょうか? 私には何の手立ても出来ない「観察」にしか思えません。 今後の経過に対してロービジョンケアなど、患者の事を親身になって相談していただける眼科医にお世話になっていますか? 私は残念ながらそのような眼科医にはお会いしておりません』。残された視機能を有効に使い生活していくためには医療および社会的な支援が欠かせません。しかしその整備は眼科医の消極的姿勢と医療保険の対象外のために遅々として進みません。現在、ロービジョンケアに取り組んでいる医療機関は県内では当院を含め7施設のみです。失明におびえる患者さんがわらをも掴む思いで実証のない治療に走る責任の一端は眼科のロービジョン医療体制と社会的支援体制の貧困にあることを痛感し今後その体制の整備に向けて努力したいと思います。



コラムの目次へ  旧コラムのページへ